長湯温泉からバスで2時間かけて別府駅へ到着した。長湯温泉に続いて温泉三昧の予感がしてわくわくする。
「別府温泉」と一口に言っても泉質や源泉もさまざまで、一帯に点在する別府、浜脇、観海寺、堀田、亀川、柴石、鉄輪、明礬の八つの温泉エリアを総称して「別府八湯」と言うらしい。
別府八湯には旅館等が営む温泉施設のほかに、地元住民の方々によって管理・運営されている共同浴場、いわゆる「ジモ泉」が100ヶ所以上も存在する。今回の別府旅の目的のひとつはこの「ジモ泉巡り」で、地元の方々が日常的に利用するジモ泉に浸かって別府の暮らしを味わおうというものだ。
ジモ泉は地域の共同湯であるからして、守らなければならないルールがいくつかある。挨拶をする、かけ湯をする、湯船の縁にお尻を乗せない、混みあってきたら譲り合うといった基本的なルール以外にも、会員(地元の人たち)とそれ以外の利用者とでロッカーの場所や利用料金が異なっていることもある。ジモ泉の主役はあくまで地元の人々であり、観光客がその調和を乱さないために必要不可欠なルールなのだ。
別府の湯はとにかく熱い。家の湯舟であればジャンジャン水を入れて適温にするところだがジモ泉ではそうもいかないので、とりあえず湯口から遠目の場所に浸かってみるがそれでもまぁまぁ熱い。熱いでしょォ~、湯あたりする前に程々にね、と地元のお姉さんに気遣ってもらう傍ら、湯口の方では平然とあつ湯に浸かる小さな婆様もいて、別府地元民の方々の「湯慣れ」具合に慄いた。


脱衣所と洗い場がダイレクトにつながった空間に驚いた。

男湯には壁に閻魔様像が彫られているといい、そちらもぜひ見てみたかった。

塩化物泉で湯上りのポカポカが長続きする湯。
別府で殊更気にいった湯が2つある。
ひとつは鉄輪にある「むし湯」で、いわゆる蒸し風呂だ。石菖(せきしょう)という薬草が敷き詰められた小さな部屋に横たわって、8~10分ほど蒸気を浴び続ける。香ばしくも爽やかな独特の香りが充満する部屋は狭さと暗さもあってどこかリラックス効果があり、蒸気で体内からじわじわと汗が噴出してくる感じが心地よかった。
隣に寝転んでいたお姉さん(大阪在住)の、月に1回は大阪からこのむし湯に通っているという言葉も納得だった。別府3日間のうち4回も通ってしまった。

さてもう一つは「鉱泥温泉」で、温泉成分を含んだ泥の湯である。別府にはもう一つ有名な泥湯があるが、そちらは混浴かつ女性客目当てに混浴へ居座る客がいるという噂があってあまりいい気持ちがしなかったため、こちらの鉱泥温泉を訪れた。
泥湯というと顔や腕にパックのように塗っているイメージがあったが、こちらは泥というよりさらさらとしたグレーの湯だった。しかし効能はめっぽう強く、5分泥湯+3分外気浴を3セット繰り返しただけで身体は芯から温まり、初めてやや湯あたり気味になって休憩スペースでぐったり休んでしまったほどだった。ここは毎日入る温泉というよりはデート前の顔パックのように一念発起で身体を整えたいときに利用する温泉なのかもしれないな、と泥の効果でつるつるスベスベになった顔をさすりながら考えた。
別府で湯の他に楽しみだったのが「地獄蒸し」である。恐ろし気な名前が付いているそれは要するに地獄(温泉)の蒸気を利用して食材を蒸し上げることをいい、宿泊した「湯治柳屋」では宿泊客が自由に食材を持ち込んで利用できる大きな蒸し釜がもくもくと湯煙を上げていた。



もちろん、近隣のスーパーなどで自分が蒸したいものを調達してもOK。


苦手だったトマトも、蒸してしまえば甘さが増して美味しくなることを知った。

これで作った味噌汁と昆布茶も美味しかった。



宿のすぐそばの蕎麦屋で買ったちまきも美味しかった。

この日の日替わりの朝ごはんは洋の蒸籠蒸しで、パンがフワッフワのもちもち!

電気でもガスでもなく湯けむりで料理をするというのは新鮮で、しかも蒸すことでほんのり塩味がついて美味しくなるということも驚きだった。特にパンやちまきは電子レンジで温めるのとは比べ物にならないくらい、もっちりと柔らかく美味しくなった。
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もくもくと街中で立ち上る湯けむりや地獄窯の蒸気を眺めていると、ここにしかない景色の街に来たなあと心が浮き立つような気持ちになる。
別府に住まうお母さんやお父さんが世間話に花を咲かせるのは喫茶店ではなく、湯船の中。電子レンジよりも地獄蒸し。かつて「人が住めない地獄のような場所」と言われた赤や青の温泉は発想を変えて、今や大型バスが続々訪れる観光の目玉になった。
わたしたちの足元のずっと下から湧き上がる大地のエネルギーを吸収しながらたくましく生きる。そんな別府の人々の暮らしを目に焼き付けて、わたしは別府を後にした。

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