富山(2) 富山の魚と亀寿司

ずんずん歩くといっても海岸から氷見漁港は目と鼻の先で、5分と経たずに着いてしまった。
漁港の駐車場には朝早くから車が列をなしていて、大半は漁業関係者や仕入関係者と思われる富山ナンバーであるものの、競りの見学や市場に併設された食堂を目当てに県外ナンバーも多く停まっていた。わたしが見つけたところでは北は福島から南は大分まで、実に津々浦々である。

さかなで有名な富山県の中でも、ここ氷見漁港は蟹で有名な新湊漁港と並ぶ二大漁港と言っていい。
春のイワシや夏のアジ、そして何より冬のブリ。種々様々な魚たちが水揚げされる。この日も市場一面のブルーシートにはぎゅうぎゅうに魚や箱が並べられ、競りにかけられていた。

さて、二階から競りの様子を眺めてみるが素人目には何が何だか正直わからない。足元に並べられた魚に男たちが群がって声や手を挙げたりしているのは見えるが、誰がいくらで何の魚を落札したのかやどんな競り合いが行われたのかは謎だ。しかし分からないままでもわたしはこの競りの雰囲気が好きだし、競り落とされた魚が各々の軽トラに積まれていくところを見るとなんだか不思議と心がじんとする感覚になる。水揚げされた魚が氷見に生きる人たちの手を渡り歩いて、いつかわたしの胃袋までやってくる。ドラマというと大げさかもしれないが、自然の輪の中から人間が生きる糧をつかみ取るその営みになぜか惹きつけられてやまない。

良い港には良い寿司屋がつきものだが、氷見には「亀寿司」という寿司屋がある。
大将は20歳の頃から寿司職人になるために修行し、2026年に訪れた時はちょうど独立から50年目ということだった。
半世紀以上も鮨を握って握って握り続けてきた大将はどっしりとした風格がありながら、握る寿司はふんわりと柔らかい。口に入れた瞬間にネタと絶妙にほどけあうシャリ、氷見や海の美味しさが凝縮されたネタ、効きのいい山葵。食べるペースを横目に見つつぽんぽんと握られる寿司のリズムに乗せられて、あっという間に12貫を食べてしまった。

普段なら12貫も食べれば腹9分目といったところだが、あいにく亀寿司においてはわたしの胃袋は普段よりずっと欲深くなる。ショーケースに並ぶ気になるネタを頼んでみたり、さっき食べて気に入ったものをお代わりしてみたり、突き動かされるようにもりもり食べる。

亀寿司に出会ってからというもの、氷見を訪れた日の夜はいつも決まって亀寿司だ。今までは連泊や再訪する時は同じ店を選ばないようにしていたけれど、亀寿司によってそのマイルールはあっさり覆された。
年に1~2回程度しか訪問できないので大将がわたしの顔を覚えているかは定かではないが、地元以外の場所で「行きつけ」ができることもなかなか、いや、まったくもって良いものだ。

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